› カラスときこり › 2011年10月

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2011年10月08日

馬を描くということ

(2011年。高崎高校東京同窓会 同窓会誌 寄稿)

馬を描くということ   若山卓(わかやまたく)(第九十三期)

四年ほど前から、仲間と馬を飼っている。「かんな馬の会」という。コミュニティホースという考え方の下、現在四頭の和種馬を飼っている。
そして、昨年高崎高島屋美術ギャラリーでの二度目の個展のテーマは「馬」だった。描くことは私と馬たちとの関係をより深めるきっかけだったかもしれない。
もし、この馬たちがいなかったら、現在の自分の生き方は全く違ったものになっていたと思う。
かんな馬の会には、埼玉県神川町の牧場と群馬県神流町の農場の二箇所の拠点があり、気候や牧草の状況などによって拠点を移動している。現在、木曽馬(木曽系種)一頭と、道産子(北海道和種)三頭がいる。
この日本在来種の小型の馬たちは、胴長短足の体型、太くて頑丈な足と蹄、粗食に耐える長い腸、穏やかで温厚な性質、優れた自己判断力等、変化に富んだ日本の環境を生きるためのあらゆる能力を持つ。
その短い足と頑丈な蹄は地域の山林内の作業道を歩くのに最適である。この作業道は林業のための道である。
ちなみに私は普段きこりをしている。きこりは木を伐る専門職である。現在の林業のスタイルは山林内に作業道を作り、重機を山に入れるということが、必須となっている。このような作業道が、地域の山林内を縦横に走っている。私たちはこの道を馬の遊歩道として利用したいと考えている。また、馬による木材搬出(ホースロギング)は私の夢である。
コミュニティホースとは、地域の人々によって支えられ、地域の人々の役に立つ馬のことである。決して、おしゃれで優雅な乗馬クラブではなく、昔、農家のおっさんが普通に馬を飼い、農耕や荷駄仕事、堆肥作りなどに使っていたように、身近な生活の中で、たとえば家から畑、または山林内を移動したり物を運んだりするのを、目的としている。
もはやクルマは古い、これからは馬の時代だと、私は半分本気で思っている。
このような地域に根ざした馬たちが、都市近郊から山間地まであらゆる場所に増えることを私は望んでいる。悪路や急峻な山道を得意とするこの日本在来馬たちには、震災時交通が麻痺した場合の支援物資輸送、あるいは中高年者の登山ブームで近年急増しているという、緊急の歩行困難者の搬送など、幅広い需要の可能性がある。

さて、馬を描くことについて、私は展覧会場の冒頭に次のような雑文を掲げた。その部分を以下に引用する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
美しく愛らしい容姿、繊細な感覚、深くやさしい瞳、寛容、力強さ、躍動・・・、そのような存在を絵画のテーマにせずにおくことなどできるはずがなかった。
しかし、手を付けてみると、非常に難しい相手だった。生半可では捉えられない相手だということがわかった。
実にとらえどころが無いのだ。理解できない。骨格やプロポーションの難しさはスケッチを重ね、また資料を研究することなどで、なんとかなるのだけれど、その性質や心がわからないのだ。心は形に表れる(と私は信じている)ので、心がつかめなければ、形がつかめないのと一緒である。描けない、描いてもどこか空々しく表面的になってしまう。
空回りする時間が数ヶ月も続き、いよいよ展覧会の半年ほど前、これはまずいと思い始めた。
普段の馬当番で決まった世話をしているだけでは駄目だと思い、関わる時間を無理やり増やし、サボりがちになっていた馬のトレーニングを積極的に行い、一頭一頭の健康状態を気遣い、できることはすべてやるという気持ちで馬と関わるようにした。絵のために始めたが、そのとき絵のことなどは忘れている。
そして今、ほんの少しでも馬の心に近づけたのならば幸いだが、どうであろうか。
今回の作品はだから、まだまだ表面的で、本当に馬が好きな愛好家や馬を仕事とするような人から見たら、浅はかな絵に写ってしまうかも知れない。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
今、この個展から一年が過ぎたが、私は未だに彼らを捉えられずにいる。最近気付いたのは、草食動物一般に共通する捉えどころのなさ、である。己を捉(捕)えようと凝視する肉食獣のまなざしから逃れることこそが、彼らが何万年も繰り返し鍛えてきた能力なのだ。そして私は、自身に肉食獣の血が流れていることを忘れている。
再び、当時の文を引用し、跋とする。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ところで、絵のために馬と深く関わり始めたことで、今までにない感情が馬に対して生まれてしまった。
愛情という言葉では足りない。
馬たちと付き合うことで、私はあらゆることを教えられている。
それは突飛に聞こえるかもしれないが、人が生きるために必要な、対人関係とか社会性とかを、私は彼らから教わった。身体感覚と精神とのバランスを教わった。感情表現やコミュニケーションを教わった。
そういうことを教えてくれるのは、学校の先生とか、誰か周りの人間だと思っていたけれど、私の場合、馬だった。
こうなると、もはや馬から離れられない。



わかやま たく
一九七六年生。二〇〇三年武蔵野美術大学大学院日本画コース修了。現在、絵描きとして制作活動を続けながら、林業(特殊伐採・空師)に従事する。


「馬群」のためのエスキース
  


Posted by waka at 05:15Comments(0)